進歩性
発明が出願された時点で存在していた技術ではないと新規性が認められても、この進歩性の有無の審査をクリアしないと特許査定とはなりません。出願の前からあった直近の技術(従来技術)から、どの程度進歩しているかどうかが判断されます。
図に進歩性の概念を表現しました。
この図で横軸は時間です。技術の発展の年や日になります。 縦軸は技術の進歩の度合です。進歩の割合は発明によってもたらされる効果の大きさになります。例えばテレビジョンであれば、高精細に表示できる技術が開発されています。例えば一ミリあたりの画面に表示できる点や線の数をより多く再生できる発明が出現します。年々歳々「解像度」が上がっていくことが求められるのです。この場合には進歩の度合いは解像度になります。また、同じ画面サイズでも、消費される電力が少なくて済む発明であれば、電力消費量であるワット(W)や、発熱量(ジュール)が進歩の度合いを表す単位になります。このように発明特有の効果の大きさが進歩性を測る単位(物差し)となるのです。
そして、一番近い従来技術から、どの程度まで進歩しているかが審査されます。
ここで厄介なことがあります。図の中で進歩性から引き出した吹き出しの中に書いてありますが、進歩性の中でも、ある程度まで高めることは、その発明の技術分野で通常の知識を持っている人(当業者)であれば、簡単に考えられるかどうかということです。当業者であれば誰でも、その程度のことは考えられる範囲であれば、容易に推考とされます。容易に推考の範囲を超えているかどうかで進歩性が判断されるのです。この容易に推考のレベルが、審査官の主観によって判断されますし、技術の分野によっても一律ではないのです。技術の発展年と進歩の度合いの関係、つまり進歩の傾きを点線で表現しました。技術の分野によってはちょっとした変化でも登録になる分野があります。登録審査官と書きましたが、登録にしやすい審査官がいる分野として比喩したのです。日用品などの分野にこの傾向があります。点線の傾きが急峻な分野は、相当程度の違いと効果の大きさが求められる分野です。拒絶審査官がいる分野として比喩しました。ハイテクと呼ばれる技術分野は、この傾向が強いといえます。
審査官の判断と出願人側の主張が食い違う争いが一番多いのが、進歩性を巡る議論です。
一般的に実務上多い拒絶理由の中には、特許庁から「従来の技術から見れば当業者が容易に推考できる」として進歩性がないと通知されるケースがあります。こうした拒絶理由が来ても、いま一度よく考え、従来まで特許として認められている進歩の度合い(審査の幅・高さ)と、従来技術にない発明特有の効果の大きさを主張して審査官を説得することを考えてください。発明特有の効果とは、その発明によってもたらされる効果ですので、例えば、先に述べたテレビであれば解像度も上がるし、消費電力も下げられる、しかも薄型にできるなどといった、発明した技術でなければ実現できなかった効果をしっかりと伝えることで、権利として認められるかどうかの審査官の判断を引き出す可能性が出てきます。執着心をもって、従来からある技術と発明の違い(相違)と、その違いによってもたらされる特有の効果を訴えることが肝心です。
本内容はJPDSから発行された書籍「企業活動と知的財産~なぜ今、知的財産か~」から一部抜粋して知的財産の基礎的な知識をお伝えしています。
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