Vol.38|知的財産戦略の総合サポート

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研究開発と特許調査

 企画、研究段階では、一般的に技術の動向調査と企業の動向調査が行われます。技術動向調査には、技術開発がどのような流れになっているか開発技術の推移を見ることが多くなります。技術ごとにどのような成長段階を経ているか、それぞれの研究課題ごとにどのくらいの特許出願がなされているかどうかを見ます。例えば年ごとに件数が増加していれば発展途上の技術であることが分りますし、件数が年々減少していれば、当該技術は衰退の方向をたどる可能性があるといった見方ができます。
また、縦軸に技術課題を並べ、横軸に解決している技術分野を並べて、マトリックスの交点にある技術を見ることで、空白技術分野を見つけることも可能になります。現在は実用化には至っていないが、今後適用される可能性のある技術を発見することもできます。
 企業動向では、特定の企業がどのような技術分野に注力しているかなどの状況、開発している技術の件数推移などで企業の動きが把握できます。また、開発体制やその規模もある程度把握できます。さらに複数の企業や団体との共同出願の状況を見ることで、共同して開発を推進している可能性を探ることも可能です。
 さらに例えば、化学材料メーカーであれば、その化学物質を使っている特許出願の伸び率を見ることで、マーケットの状況を把握し、当該技術分野での新しくエントリーしている出願人が増加していることが分れば、マーケットの拡充の可能性を探ることもできます。また、想定していなかった素材の使い方や分野が確認出来ることもあり、新たなニーズ情報を把握することにもつながり、市場動向の一つとして使うこともできます。

研究開発と特許調査

 技術動向調査の一例を、光通信技術の流れ図に示しました。これは現在では家庭にまで導入されているグラスファイバーを用いた光通信技術の流れを描いたものです。
 1900年にアメリカのベル研究所で発明された音の強弱を光の強弱にして通信を行う発明をスタートに、光を使って信号を伝送する通信技術の発明された順に時系列で並べたモノが、図の一番上の線です。これに対し、ガラスを伝送媒体として使うことを提案したアイデアが1920年のフランスにありました。ファクシミリで紙に書いた内容をスキャニングした光の強弱を電子回路に伝える際にガラスの管(グラスファイバー)を使った技術が提案されました。その後ガラスの透明度を高める発明や、伝送効率を上げる技術が開発され、1960年代に入り光通信の技術とグラスファイバーの技術が統合されて、さらなる発展を遂げていることが一目了然になっています。特許情報を出願日順に並べただけで、こうした技術開発の流れを読み取ることができます。

光通信技術の流れ図

組織分析も

 

 次の図は開発組織の分析をした例です。これは磁気ディスク開発をしているある会社の開発体制を、特許情報を主に使用して分析ました。この企業では小田原にある開発拠点と中央研究所の主な2拠点で研究開発が行われていたことが分ります。磁気ディスクは磁気記録層が塗られた円盤を回転させて、読み書きを行うヘッドを制御して信号を記録・再生する技術です。
 磁気ディスクの記録媒体は、中央研究所の第1研究部、第7研究部でもって総勢17名で研究がなされていました。読み書きヘッドは中央研究所第6部と小田原の制御回路設計部で行われています。各開発分担やどのような構成メンバーで開発が行われているかも分かります。
 特許情報の発明者から、技術テーマごとのメンバーが洗い出せます。この分析をした当時はこの企業では開発組織の8~9割の人が発明をしていた事実もありましたので、開発体制の人数も実情と大きな違いはないと判断しました。
 各発明者の拠点や所属は、当時の学界名簿から類推できました。また上場企業の職員録、さらには新聞などの業界誌や学会誌の記載からも所属まで分ります。
 全て何らかの形で公開になっている情報から、これだけの組織や分担を把握できるのです。

開発組織分析の例

 こうして特許情報を中心に分析することで、技術や企業の動向を探ることができます。
研究開発が進み、設計製造段階で必要になる情報を見てみましょう。

研究開発と特許調査

詳細な設計に先だって、先行している他社の技術を把握し、検討中の設計を変更したり、開発そのものを見直したりする情報を得る使用法が多くなります。他社に先行されていて回避が困難であれば代替になる技術を調べたり、ヒントを得るための調査も必要になります。今後の新技術の種(シーズ)になりそうな発明をいち早く見つけ、例えば大学などの研究者との共同研究や共同開発に手を打つことも大切です。また、自社の開発技術で他社を凌駕する有効特許を取得できる可能性があるかなどの調査も必要になります。
 製造技術を把握するための調査もあります。一般的に製造上の技術は技術秘密として保護することが多いとされています。しかし昨今の技術者の流動化や分析技術の発展で、ノウハウとしての保護は完全に行えない状況になりつつあります。したがって、今までならノウハウとして秘密に保管・保護されていたような製造技術などが特許情報として出てきています。特許情報では目的課題が明確にされていますから、製造上の具体的なトラブルに対する処理で、どのような生産方法や製造方法を取れば良いかという具体的な情報が数多く記されています。

技術相関分析

 

 ワイヤードットプリンタの技術相関図を示しました。ワイヤーで打った点(ドット)で、文字や図を表わすプリンタですが、カーボンコピーなどで複数枚の全く同じ内容の書類を作る様な場合に使うために現在も製品が作られています。このドットプリンタの印字速度を向上させるために、印字ヘッドの軽量化、ワイヤーやガイドの技術、マグネット関係、制御方法などの技術課題がありますが、実現方法として代表的な技術をどこがどの様な内容で権利取得しているかが一目了然になっています。信頼性向上に、耐久性、保守性の課題も同様に図示されています。

ワイヤードットプリンタの技術相関図

本内容はJPDSから発行された書籍「企業活動と知的財産~なぜ今、知的財産か~」から一部抜粋して知的財産の基礎的な知識をお伝えしています。



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