発明を技術思想として捉える
発明を漏れなく抽出するために、技術まとめの会と名付けた活動を提唱します。これは発明者の頭の中をすべて顕在化して、有効特許を取得するためのポイントになります。
開発設計が複数の人が係わりあってなされていることが少なくないので、開発の担当者を集め、今回の開発の課題を整理します。問題点を意識し、または新しい課題を発見する工程です。設計にあたって苦労したことや、製品の基本仕様で新しく盛り込んだ機能要件などを何の目的で行ったかを整理します。そして、その課題なり問題点を、実際の製品ではどのような工夫で解決したかを抽出します。
この製品に適用したアイデアを核として次のアイデア発掘段階に移ります。
このアイデア発掘段階では、発明者の頭の中にあるアイデアを漏れなく抽出するとともに、関連するアイデアを含めて顕在化します。ここでは今回製品に適用したアイデアの他に関連して考えたが、納期やコストなどいくつかの阻害要因もあり、採用に至らなかったアイデアを出します。技術者は課題を解決するための複数のアイデアを考えていることが多く、製品に適用しなかったアイデアでも先々条件さえ満足すれば製品化できることを考えているものです。同じ課題を解決するアイデアであればすべて抽出します。
こうして複数考えられていたアイデア以外の、さらに機能を向上したり、機能追加をするアイデアがあれば抽出します。
続いて、これらのアイデアを盛り込んだ商品が提供されたら、顧客はさらなる機能を要求してくる筈だ、という新しいニーズを生み出す可能性のある将来の製品イメージを描いてもらいます。そして将来のアイデアも顕在化します。
また、これらの様々なアイデアを盛り込んだ特許を権利化した場合に、他社ならどのようにして権利を回避するか考えて、その逃げ道を塞ぐアイデアも抽出します。
加えて、これらのアイデアを他の分野に適用、応用できないかを検討します。こうして出てきたアイデアをすべて出すことにより、発明として充実した実施方法(実施形態)が洗い出されます。当初のアイデアだけでなく複数の応用例を示すことで、知的財産部門または特許事務所の担当弁理士がアイデアとしての技術思想を描きやすくなります。特許法では、「発明は技術思想の創作」と定義されています。したがって、複数のアイデアをまとめて整理して、体系化して技術の思想として捉えることをぜひ実践して頂きたいのです。
こうした結果はどのようなことになるかを、プラスねじを例に説明します。
プラスねじは日本人の発明したものが、世界で最初のアイデアでした。
1906年(明治39年)に野口保氏が特許を取得しています。特許第11466号「十字形溝螺旋鋲」です。
それまで使われていた、マイナスねじでは、位置決めもままならず、グラグラして、ねじ止めがなかなか難しいので、ねじの頭を十字形にし、ねじ回しの先端も十字にしようというアイデアです。
実は1936年になりアメリカではフィリップス・スクリューが、プラスねじの特許を取得しました。
フィリップスのプラスねじの特許は、現在我々が日常的に使用している、ねじとドライバーが示されています。野口氏の十字螺旋よりも具体的な形状と、ねじにドライバーの力が伝わるような、ドライバーが示されています。
野口氏の発明でも技術的なアイデアは伝わりますが、具体的な実際の商品としてはフィリップスの特許の形になります。こうして実際の実用化を考えて図面にまで表現しておきたいものです。
フィリップスは、プラスで権利化した場合は他社なら、どうやって逃げるかを考えて、ねじのお皿の形状を、蝶々のような形でも、三角形でも、星形でも良いという実施形態を示しています。
こうしてネジの頭をマイナス(-)でなくプラス(+)にすればよいというアイデアを思い付いたときに、具体的な形状はどうあるべきか、またプラスで権利を取得したら、どのような形状で権利を逃れようとするか、権利を主張する範囲を拡大することができるかを考えて、当初のアイデアに追加することにより、発明の技術思想化が図れます。
本内容はJPDSから発行された書籍「企業活動と知的財産~なぜ今、知的財産か~」から一部抜粋して知的財産の基礎的な知識をお伝えしています。
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