検索式におけるキーワードの使用 第1回
はじめに
2023年1月
日本パテントデータサービス株式会社調査部
嵯峨喜次(知的財産アナリスト(特許))
特許調査において、一部の例外(Fタームの積による限定)を除いては、キーワードを使用して調査範囲を限定して絞り込む作業が必須となります。しかし、キーワードを使用する場合全てのケースを網羅することは難しく、ある程度の漏れが生じます。
ここでは、調査においてキーワードを使用した検索式の作成において、このような漏れに対する対策を取りながら適切な調査範囲を求めるのに必要な知識をまとめます。
尚、キーワードを用いた検索式には絶体的に正しい正解があるわけでなく、個々の場面でより精度の高く、リーズナブルな範囲の絞り込みができるものを選択していくしかありません。そしてその選択によって、どのような部分の調査ができて、漏れる可能性があるならどこかを明確に把握できるようにすることが大切です。ここではその指針となる考え方を紹介します。
1.キーワード使用のメリット
特許分類が存在しても、その範囲に必ずしも含まれないケースがある
複数主題から成り立つ発明、より優先的な主題がある場合は異なる分類が付与されるケースがある。
例)人工知能を使うビジネス特許
G06Q配下の分類が付与され、G06N等人工知能の分類が付与されないものもあり。
例)画像解析に深層学習を使用
画像解析には「ニューラルネットワーク」に関する分類があるが、その分析がエッジ分析であるなら、そちらの分類が付与されるかもしれない。
新しい技術には、その分類が存在しなかったり、存在しても付与されていないものが多数ある
例)ブロックチェーン、メタバース、デジタルツイン、深層学習等
複数主題から成り立つ発明や新しい技術に対応するためにも、キーワードによる検索式が必要になります。
2.キーワード使用のデメリット
必ずしも目的の概念を限定できない
①狙った概念を特定できないケース
「仮想」と「マシン」の積:仮想マシンを特定したかったが、
「仮想メモリを持つマシン」や「仮想現実を実現するマシン」が引っかかった。
②目的のキーワードが入っていても、発明のメインの主題でないケース
「XXXXを含む」や「XXXXを除く」などの表現⇒XXXXというキーワードが発明の主題ではない。
例)「画像解析には深層学習によるものを含む」という記述が末端の従属項にあり
⇒深層学習はその公報の発明では必須のものではない。
類語を用いてもすべてのケースはカバーできず漏れが生じる
例)仮想マシンの公報上の表現(この他にもある)
仮想マシン、ヴァーチャルマシン、バーチャルマシン、仮想機械、仮想OS/ハイパバイザ、
仮想サーバ、バーチャルサーバ、仮想コンピュータ、バーチャルコンピュータ、主OS/従OS、
主オペレーティングシステム/従オペレーティングシステムなど
3.キーワード検索デメリット対策
キーワードの検索範囲を特許分類で限定することでノイズを減らす
キーワードのみで調査対象の概念を表現した場合ノイズは増大します。また、同じ用語でも技術分野によって別の意味を持つケースもあります。
このようなノイズ除去には、特許分類との積が有効ですが、狭くすると漏れの発生も増大するので、公報が属すると思われる特許分類をできるだけ広く取るようにします。
具体的には、セクション~サブクラス(時にはメイングループ)の範囲の和でキーワードの範囲を限定すると良いでしょう。
例)医療において患者の生体画像を加工するもの
FIとIPCを用いて、A61(医学または獣医学;衛生学)と
G06(コンピュータや画像処理があり)、G16(ヘルスケアインフォマティクス、IoT関連の技術あり)の
和の範囲を日本公報のキーワードの検索範囲とする。
米国ではFIの代わりにCPCを用いてY10S 600~Y10S 623(外科関連)を上記の和に付け加える。
調査範囲を工夫することで漏れの可能性を少なくする
①特許分類とキーワードの和集合で概念を表現
特許分類指定の漏れをキーワードで補完するという考え方。
例)深層学習関連の特許
G06N3/02配下だけでなく、
「深層学習」や「ニューラルネットワーク」というキーワードの範囲も含める。
②キーワードのみによる限定があるとき、そのキーワードを含まない調査範囲も設定する。
1つのキーワードの範囲のみを調査範囲とした場合、
そのキーワード(類語も含む)で表現できなかった範囲が漏れるため、
そのキーワードを含まない範囲も調査範囲とする。
例)A、B、Cと言う3つの構成要素がありBだけを「キーワード」で表現している場合
A&B、B&Cは、Bのキーワードの定義に漏れがある場合、調査漏れが生じるので
Bを外したA&C内の調査も実施するようにする。
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