特許調査の方法 ~特許調査の見える化~ 第1回
はじめに
2022年7月
日本パテントデータサービス株式会社調査部
嵯峨喜次(知的財産アナリスト(特許))
ここでご紹介する内容は「特許調査を見える化」し、調査の当事者間で何をどう調査するかを共有して、調査の優先度の高い部分を逃さない適切な調査範囲を規定する手法の一つです。私たちはご依頼を受けた場合、このような整理をさせていただくことが可能ですが、皆様の中で特許調査を実施される場合でも活用できるものです。
特許調査において、適切な範囲を調査することは必須ですが、製品の多様化・少量多種の製品開発が必要な中、市場規模に合わせて、調査件数(費用)削減も求められます。
調査件数を削減すれば、リスクは増大しますが、私たちはリスクをできるだけ少なくし、且つ適切な調査範囲を設定して迅速に調査することを目指しています。
特許調査はその種類により、重点が異なる部分はありますが、共通に言える部分についてこの資料では掲載をします。また、対象国に関わらず、活用できる手法です。
1.特許調査において最も大切なこと
私たちは、特許調査を実施する上で最も重要な作業は「調査観点(何を調査するか)」を的確にまとめることであると考えます。「調査観点」が的確であれば、「調査観点」から「調査方針(どう調査をするか)を生成でき、「調査方針」に従った検索式を作成することで、的確且つ費用対効果を考慮した調査が実現されます。
「調査で検索式がうまく作れない」「当事者間で調査範囲について意識が合わない」「調査費用の予算との乖離」「調査結果の不安」などのほとんどは「調査観点」の曖昧さに起因しており、「調査観点」を明確に定義することで的確な調査が実現されます。
調査観点(何を調査するか)
簡潔で意味のブレのない言葉で構成
調査方針(どう調査をするか)
- 用語と特許分類を決定
- 調査範囲
- 優先度付け
調査方針を具体化し検索式を作成
調査結果(適切な調査)
調査観点が明確だから
- 当時者間で意識ずれなし
- 調査した範囲が明確
- 優先度付けが可能(費用対効果の適切化)
- 各公報の一致不一致点を調査観点と対比可能
- 調査の補完や追加調査もどこを実施すれば、良いかの理解・意識合わせがしやすい。
2. 調査観点
2-1. 調査観点の整理が必要な理由
特許調査が正しく行われない原因として以下があります。
調査内容を理解することと何を調査するかの違い
前提となる技術に説明や実施内容を知ること、正確な定義のための表現や例外事項の情報が必要だがそのために表現が冗長であったり、調査に直接必要のない情報も含まれる。このため、特許調査に不要な内容、細かく特定しなくても良い内容が調査に含まれてしまう。
技術背景、知識、立場の違い
その人の技術背景、知識の違いにより理解する内容や常識が異なる。また、開発者と調査する側等の立場の違いにより、技術のとらえ方や調査の前提条件が異なることもある(3-1に事例を掲載)(3-1に事例を掲載予定)
大まか意識での合意の問題
互いの意識のずれを追求せず、"何を調査するか"の部分を曖昧に合意したことで、調査対象にずれが生じ、調査結果が期待と反してしまう。(3-1に事例を掲載)(3-1に事例を掲載予定)
曖昧さ、冗長性を排除した骨子を構成する言葉のみで表現した調査観点を作成することで、当事者間で何を調査するかの認識を一致させることが重要です。
2-2. 調査観点とは
調査内容を必要最小限の言葉をまとめたもので、以下の構成からなります。
表現方法は以下に限定しませんが、代表的な表現方法を記載します。(3-2に事例を掲載)(3-2に事例を掲載予定)
技術分野(調査対象を適用する技術分野)
調査対象の内容が属する技術分野
効果(調査対象技術の課題/目的/効果)
調査対象の技術(発明)の解決する課題、実施の目的、実施により得られる効果。(特許公報は、 「課題/目的/効果」1つについて1件作られるため、複数あれば複数の調査対象となる。
構成
調査対象技術(発明)を実現する「構成要素」をひとつずつの構成要素に分解して、端的な言葉に表現したもの。「構成要素」を明確にするため、「構成要素」毎に番号を付与。「構成要素」は、原則、一つの概念を表現するもので複数の概念を含むなら、別々の「構成要素」として分解します。
2-3. 調査観点作成のポイント
ひとつの技術の特定
1つの発明(技術)は1つの公報に記載されているため(「課題/目的/効果」と構成が1対となる)
必要最小限の言葉の使用
枝葉末節の記載を排除することで技術(発明)を正確且つ一意的に特定。曖昧さや「構成要素」間の言葉の重複を削除することで、技術が明確になり、調査内容の誤解を防止し、適切な調査が可能になる。
「技術分野」「効果」「構成」に整理
同一性を判断する基準を明らかにする。「技術分野」「効果」を明らかにしないと、調査対象を理解することが難しいが、技術の特定には「技術分野」や「効果」は必ずしも、一致する必要はなく、「構成」を形成する各「構成要素」それぞれの一致を評価する。ある技術分野でしか、「効果」がないものは「技術分野」も「構成」に入れるべき。
重要な「構成要素」を特定
「効果」を実現するのに重要な「構成要素」を明らかにする。後の工程で「調査方針」を作成するのにも重要である。但し、従来技術を示す構成は省略しても良い可能性もある。
構成要素自体の省略、構成要素の表現のスリム化
なくても、意味が通じる「構成要素」や「構成要素」内の説明を補う言葉はできうる限り、省略する。
2-4. 調査の種類に応じた調査観点明確化のポイント(まとめ)
調査の種類が先行技術調査、侵害回避調査、技術動向分析なのかにより、調査観点の抽出で留意すべき点は異なります。
又、無効化調査や有効性の調査は、対象請求項があるので、調査観点を整理することは絶対に必要とはいえませんが、調査観点をまとめることで、調査方針や検索式を作成する際の整理に役立ちます。
調査観点とは
以下を整理したもの
- 調査対象技術の効果
- 調査対象を適用する技術分野
- 構成要素
調査の種類に応じた調査観点明確化のポイント
先行技術調査
- 従来技術との違いを課題(目的・効果)として明確化
- 課題を解決する構成を明確化
侵害性調査
- 製品のエンハンス項目
- カタログやセールスポイント
- 製品の形状や使用、分解により、明らかになるもの
- ユーザ・インタフェース
- 製品のマニュアル・製品関連の技術論文等の文書記載事項
- 製品のコア技術や回避できない技術
- 新しい技術だけに限らない
- 調査すべき技術の効果・構成をできるだけ具体的にすること
技術動向調査(事例収集)
- 実施調査はマクロかミクロか
- 漏れについての考え方の明確化
- 分類軸・分類項目の明確化
|特許調査関連情報 TOP |